3位入賞者に水うちわを贈ります

水うちわをつくる職人の久世敏康さん
乾燥中の水うちわ

(写真は2023年12月、いずれも岐阜市の家田紙工で)

高橋尚子杯ぎふ清流ハーフマラソンの3位入賞者に、岐阜市は数年前から、伝統工芸品の水うちわを贈っています。2024年4月28日の大会で贈る6本も家田紙工(岐阜市今町)で絵をつけ、ニスで仕上げます。

数百年受け継がれる岐阜うちわ

岐阜うちわには、柿渋を塗る渋うちわ、漆などの塗りうちわ、そして水うちわがあります。透明感のある水うちわは涼感たっぷり。あぶらとり紙で知られる雁皮の薄紙にニスを塗り、扇面の向こうが透けて見えます。岐阜うちわは数百年の伝統があり、近代以降では明治中ごろ、岐阜市の業者が製造を始めました。現在は家田紙工など3社が手掛けます。

家田紙工の家田学社長(63)によると、水うちわには5工程があります。紙を漉き、絵をつけ、骨をつくり、張り、ニスを塗ります。家田さんは美濃市の手漉き職人3人に依頼。漉きけたに絹を敷いた紗漉きで、極薄、均一に漉きます。家田紙工でその紙にシルクスクリーンで絵をつけます。高価なものは手描き。香川県丸亀市の業者は、山奥の真竹を切り、骨を作り、家田紙工でつけた絵入りの紙を張りつけます。

ニス塗り3回

家田紙工に戻され、仕上げのニス塗りは職人の久世敏康さん(50)が担当します。ニスはカイガラムシの分泌液を精製した天然樹脂。水うちわ特有の透明感、防水性を高めます。1回目はエタノールを多く、樹脂を少なくした薄め、その後、樹脂を7割にし、計3回、黙々と刷毛を動かします。1本で30分ほどかかります。

「気温、湿度、天候によってニスの厚さを調整します。塗りすぎると乾きにくくなります」と久世さん。最初はしっとりしていますが、古いうちわは表面がさらさら。年月を経て、エタノールが揮発すると、ニスの黄色味が強くなっていきます。ニス塗りの3月から8月には、24本を挿せる乾燥台5台がフル稼働します。持ち手に紙を巻いて仕上げます。

スポーツにエール

久世さんにはもう一つの顔があります。熱烈なFC岐阜サポーターで、サッカー歴は幼稚園から。「FC岐阜大人サッカースクール」に所属し、応援も、プレーも抜かりありません。FC岐阜は、ぎふ清流ハーフマラソンのメーン会場でもある岐阜メモリアルセンターがホームグラウンドです。「スポーツの力はすごい」とエールを送ります。

家田紙工の水うちわの絵柄はカワトンボ、ギフチョウ、鮎、金魚、長良川に生息するカワセミなど数十。ぎふ清流ハーフマラソンで贈るのは、ヒメコウホネの絵柄が多いようです。金華山のふもとの清流に自生する絶滅危惧種の黄色い花です。

水うちわの由来は、水滴をつけて涼んだことからか、透明感からか、諸説あるようです。「鵜飼鑑賞は高級な遊びだった。酔客はうちわを水面につけたかも」と家田さんは推測します。ぎふ清流ハーフマラソンでは、ハーフの日本陸連登録者、ハーフの一般、3キロの3位入賞者男女6人に水うちわを贈ります。ぬれても拭けば大丈夫ですが、薄紙の繊細さを大切に楽しんでほしいと思います。